平成二十四年壬辰(みずのえたつ)(西暦2012年)
  


祥雲龍翔
瀧に映る清龍は、金色の妙華を描き、三昧耶形を現す。
時に、天空を舞乱し、大地を揺るがし、大海を荒らすが、自然法爾の理なり。
今や醍醐に舞い降り、衆生の守護を誓う清瀧権現なり。
 
 
 辰年の辰とは架空の創造物とされる龍を表しますが、龍は仏法において、法華経の会座に護法の龍神として配列される八大龍王(難陀、跋難陀、娑伽羅、和修吉、徳叉迦、阿那婆達多、摩那欺、優鉢羅)を示します。このうちの娑伽羅(Sa-gara)については、雨を供給する龍神ともいわれ、真言宗祖弘法大師空海が、伝持の八祖として惠果阿闍梨より伝法灌頂を授かった中国の青龍寺の守護神(善女龍王)であったといわれます。
 そして、空海の帰国渡航の際に船中に現れ、密教を守護することを誓い、空海が高雄山寺(824年に神護寺と合併)住職となった時に勧請され、日本の各地に飛来し、「清瀧権現」と敬称されるようになったとのことです。また、同時期、東寺の管主として座していた空海が西寺の守敏と「請雨修法」を祈祷した時、神泉苑からこの龍王が出現し、雨を降らせたという伝説があります。
 その後、900年に当寺本山醍醐山醍醐寺開山主の理源大師聖宝により山頂の安置所に降臨し留まり(1097年に下の伽藍の五重塔の前に分祀して安置)、真言密教の守護神となったといわれます。
 神仏は三千大世界(宇宙すべての世界)では共存し、宇宙真理を描く曼荼羅に配置され、その徳や能力を喩えて様々な形相で表現し、その真意に宇宙の生命活動を表わしています。
 とりわけ龍神は、無熱の地に住み、金色の姿で天空を舞い、大海を渡り瀧に映るが如く水に変じるという様相ですが、善龍と悪龍がいるといわれています。瀧に映る清龍は、金色の妙華を描き、三昧耶形を現す。
 喩えるに、昨年3月11日に東北地方から当寺の圏域を含む広域で起きた東日本地域の大地震も悪龍の仕業ともいえるかもしれません。時に、天空を舞乱し、大地を揺るがし、大海を荒らすが、自然法爾の理なり。  
東日本大震災記
 悪龍と計り知れない地球活動とは比較にならず喩え難しというものの、やはり大宇宙に幾つもの銀河が存在し、それぞれの銀河の中に更に幾つかの太陽系に似た配列があり、その中の一つの星である地球の46億年の生命活動の軌跡には、人類が誕生する以前の先カンブリア紀、ジュラ紀、白亜紀などといった灼熱や寒冷の時代や大陸の分離移動があった事実があるように、宇宙生命の営みとしての活動からしてみれば、ほんの僅かな活動であり、自然法爾として受け止めざるを得ないことなのです。
 不増不減の大宇宙の中で均衡を図る生命活動は、無常にして留まらず、様々な環境に適応して様々な生命体が生・滅しながら生態系を維持しています。そして、我ら人類は、そんな小さな星の中で、必然的な時の流れと環境適合の原理融合の縁起を得て、現世に誕生せられ、仮有に生きることの実体を覚知できなくとも、一刹那に現象界に存在する貴重な生命を次世代に繋げるために、家族や社会を作り生きているのです。人類から観る現実は残酷にして不条理なことばかりかもしれません。そして、また、いつ何時に、次の瞬間にも大きな天災害に遭遇するかわかりません。
 しかし、そんな一刹那な現象界に生きる我らには、共に生きる慈愛を持ち備えており、諦めることがない限りは、どんな苦難にも立ち向かう勇気と忍耐を持って、生きることの幸せを求めて歩み続けて行くのです。
 昨年を表す漢字に「絆」が選ばれた世相背景には、やはり東日本大震災において、被災者同士が互いに助け合い、国内だけではなく世界中から日本の罹災地への救済支援や復興支援の手がさしのべられたという、人々の「絆」の大切さが強く表されていることでしょう。
 そして新年を迎え、悪龍は既に去り、善龍なる清瀧権現に変じて醍醐に舞い降り、衆生の守護しているものと信じ、罹災地の復興と新たな年の幸せを祈願いたします。今や醍醐に舞い降り、衆生の守護を誓う清瀧権現なり。




「平成23年賀状」

 一般用の家族年賀状

 

 
 
真言宗醍醐派 東大峰山 向山寺(向山大師) 山主第二世 小松康禅